明日菜のおみやげ 第一話


2003年4月22日。
修学旅行一日目。
京都、ホテル嵐山。

私、神楽坂明日菜は今日一日の出来事を振り返っていた。
つい数十分前、京都駅で派手なバトルをして体は疲れていたけど、まだ興奮が冷め切っていない感じで、なかなか寝付けずにいた。
桜咲さんが魔法のことを知っていたり、このかがさらわれたりしたのもそうだけど、今日は新幹線に乗ってから、トラブル続きでホントに忙しい一日だった。






「アスナさん。何見てるんですか?」

そうネギに話しかけられたのは、清水寺に向かう途中だった。
清水坂に面したみやげ物屋に目を奪われていた私は、みんなから少しはなれたところを歩いてしまっていたらしい。
それを見た担任のネギが、私のところまで来たみたいだった。

「え、ああ、ゴメン。ちょっと気になって」

我に返り、皆のいるところまで戻る。

「おみやげですか。誰かに買うんですか?」
「ん、うん。まあね」

おみやげを買う相手は決まっていた。
修学旅行の行き先の違う美術部仲間と、お互いにおみやげを買い合おうという話になって、私は京都のおみやげを買うことになっていた。
他にも、いつもお世話になっている人達にもおみやげを買わないといけないんだけど、そんなことまでネギに言う必要はない。
「だったら、僕もおみやげを選ぶの手伝いますよ」
なんて、言い出しかねないからだ。
そこまで、おせっかいを焼いてほしくない。おみやげくらい一人で買えるんだから。

「アスナー、おみやげ買うたらあかんえー」

はんなりした声に、唐突にお土産を買うことを禁止されてしまった。

「は? 何でよ、このか。そんな決まりあったっけ」

私のルームメイトである近衛木乃香からの、突然の無茶苦茶発言に疑問をぶつける。

「ちゃうちゃう。アスナ、もしかしたらうちのおじいちゃんにおみやげ選らんどらんかった?」
「うん、学園長には買って行くつもりだけど」

いつもお世話になっている人、このかのおじいちゃん。私達の通っている学校、麻帆良学園の学園長。私の生活の面倒を見てくれている人。

「あかんあかん。おじいちゃんに言われたこと伝えるの忘とった。おじいちゃんからの伝言でな、わしにおみやげはいらんから、楽しんできなさい。やて」
「学園長が……」

先手を打たれちゃった。
どうやら私に気を使わせないように、このかに伝言を預けたみたいだった。

「それとな、もしそれでもおみやげ買うたりしてたら、ツッコミも許可するゆうとったわ」
「アハハ……」

このかのツッコミはちょっと遠慮したいので、ここは素直に学園長の好意を受け取っておくことにしよう。
帰ったら、お礼を言いにいかないと。

「けどそれ以前に、今からおみやげ買うてたらたいへんや。まだ一日目やから荷物もかさばるし、食べ物だと傷んでしまうえ」
「あ、そうか。言われてはじめて気づいた」

我ながら、間抜けな話だと思う。
普通おみやげは、最後の日に買うものじゃないかな。

「ほんにアスナは、もうちょっと頭を使わんと」
「う、バカで悪かったわね」

このかの言うことは、もっともなので何も言い返せない。
けど、これで少し気持ちが軽くなった。
じっくり選んで、おみやげは最終日にまとめて買うことにしよう。

「うーん、けどやっぱり」

目が、みやげ物屋にいっちゃう。
最大の理由は試食コーナー。
ああ、あのお菓子ってどんな味がするんだろう。
なんてことを考えてたら、なにやら見覚えのある後姿がお菓子の試食をしていた。

「―――桜子?」
「あれ、アスナ? あ、ネギくん。ホラホラ八つ橋だよー。食べたことあるー?」

呼びかけたのは私なのに、なんでネギの方に行くのよ。
ていうか、桜子。その手に持っている八つ橋は、アンタが買ったものじゃなくて、お店の試食用のもでしょう?

「はい、ネギ君。アーン」
「や、やめてください、桜子さん。一人で食べられますよー」

ん? なんか急に周りの視線が集まったような。
どちらかと言うと、ほほえましい光景を見るときのあったかい視線が。

「ねえ、このか。ネギのことなんだけどさ」
「うん? なんや、アスナ」
「麻帆良学園の外に来てみて気になったんだけど、ネギって、他の人から見たらどう映るのかな?」

私の問いかけに、このかは人差し指を頬に当てて考える仕草をする。

「んーと、しずな先生の子供とか」

ザワッ……。

あれ? 急に周りの空気が変わったような……。
特に、先導のしずな先生のいる前のほうが……。

「ちがうよこのかー。どっちかって言うと、アスナの弟じゃないかな」

なんとなく重苦しい空気を、いつもの調子で破壊しながら桜子が言う。
ちょっとネギ、なんで顔赤くしてんのよ。

「せやなー。どう見ても、担任の先生には見えへんやろなー」
「うう、やっぱり」

このかの言葉にネギは落ち込んでるけど、こればっかりはどうしようもないでしょ。






こんなやり取りをしながら清水寺に到着した私達は、そのあと地主神社、音羽の滝を見て回ったんだけど、ここで関西呪術協会とかいう連中のいやがらせにあって大変な目にあった。
旅館についてからも、酔っ払ったいいんちょたちを部屋に運び込んだりしててゆっくりできなかったし。
明日は奈良かー。
うーん、奈良のおみやげって何だろう……。

さすがに眠くなってきた。

……おやすみー。



<第二話>

戻る