明日菜のおみやげ 第三話


2003年4月24日。
修学旅行三日目。
京都、R毘古神社内某所。

私、神楽坂明日菜は今、関西呪術協会の総本山の近く、川岸の大きな岩の上で一息ついている。
隣には、「本屋ちゃん」こと宮崎のどかちゃん。彼女にはつい先ほど、関西呪術協会とのいざこざに巻き込むようなカタチでネギの魔法がばれてしまった。
当のネギ本人はと言うと、私達の目の前でぐっすりと眠っている。なんでも、紙型っていうやつに意識を移して、このかたちの様子を見に行ってしまった。
というわけで、今の私達にはやることがない。
暇ね……。






「神楽坂さん、これからどうしましょうか?」

修学旅行の三日目は班別自由行動の日程で、私とネギは比較的自由に行動できるこの日に関西呪術協会の長を訪ねるつもりだった。
ところが、ホテルを出るところで運悪くパルに見つかって、そのまま班のみんなでネギと合流する破目になっちゃった。

「うーん、最悪私とネギの二人だけでもどっかで抜け出せたらなあ」

大堰橋を渡りながら、事情を知っている桜咲さんと話をする。
前のほうでは、修学旅行気分を満喫している図書館探検部の連中とネギとが雑談に花を咲かせながら歩いていた。

「この様子では、しばらく抜け出すのは難しいですね」
「そうね、ちょっと様子見かな」
「はい。ですが、もし抜け出せる機会があれば御自分の判断で行動してください。後のことは私が何とかしておきますので」

私のネギがいなくなったときのフォローと、このかの護衛を引き受けると言ってくれた桜咲さんが、ひときわ頼もしく見えた。



しばらくして、私達一行はお店の多いやや開けた場所にさしかかった。人通りもそれなりに多くてにぎやかな場所だった。

「ふーん、旅館の近くにこんなところがあったんだ。だったらおみやげはここら辺で買えばいいのかな」

路地に面したみやげ物屋をのぞきながら、のんびり歩いていると桜咲さんが話しかけてきた。

「神楽坂さん、おみやげですか?」
「え? うん。ホテルの売店で買うより、こっちのほうが種類も多いし」
「なるほど。ちなみに、どなたに買われるのですか?」

あれ? また聞かれた。
なんで、みんなしておみやげの買う相手を聞いてくるんだろ?
おみやげに関する会話って、決まりきってるのかな?
うーん、ならここは桜咲さんには悪いけど、こういう切り返しをさせてもらうわ。

「そういう桜咲さんは? 誰かに買わないの?」

え? と、急な質問にびっくりしたらしく、考えがまとまらないのか、なにやら言いよどんでいる。
ようやく出た回答は、特に買っていく相手もいないとのことだった。ちょっと気まずかった。



そのあと、近くのゲームセンターに立ち寄ってプリクラを撮った。
パルが京都限定のフレームがある、って騒いでたんだけど、いくら京都っぽいからってこれはおみやげにならないわね。
却下よ、却下。
そういえば、ネギと写真を撮るのってこれがはじめてかな。
どうせならこんなプリクラじゃなくて、ちゃんとした写真で撮っておきたいかな。






「アスナさん、どうしたんですか。ボーっとしちゃって」

気がつくと、本屋ちゃんに話しかけられていた。

「あ、ゴメン。ちょっと考え事。こんな状況で不謹慎かもしれないけど、お土産のこととか」
「そうなんですか。おみやげ、誰に買っていかれるんですか?」

まただ。
本屋ちゃんは楽しそうに、ニコニコしながら聞いてくる。
けど何回も聞かれているうちに、ちょっと気味が悪くなってきた。
頬が引きつるのを感じながら本屋ちゃんに尋ねてみた。

「えっと、そんなに気なる? おみやげの相手って」
「あ、いえ、そんなに深い理由があって聞いたんじゃないんです。ごめんなさい、今の質問は忘れてください」

表情が顔に出てしまったのか、本屋ちゃんは気まずそうに謝ってくる。
さっきの桜咲さんの件といい、なんか気まずい思いをさせちゃってるな。
本屋ちゃんには、気にしてないから謝らないで、と話しておいたけど。
あーあ、何やってんだろ、私。



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